臨床の場において、医師を悩ますこと、この患者は「発達障害なのか愛着障害なのか」現在研究が進められている。
我々は日々の臨床の中で、愛着障害と発達障害とが複雑に絡み合うことを知っている(福井大学 子どものこころの発達研究センター 友田明美)
愛着障害とADHD
近年、知的発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示す児童生徒の割合は6.5%(文部科学省2012)と見積もられ、その多くが注意欠如多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)などの発達障害を有している。一方で、愛着障害(RAD)はチャイルド・マルトリートメント(不適切な養育)によって発症する。このチャイルドマルトリートメントには、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待も含まれている。
マルトリートメントを起因として、社会的擁護を受ける児の19−40%にRADが出現し、同障害は感情制御機能に問題を抱え、成長につれ重篤な精神疾患へ推移するリスクが高いと言われている。
福井大学 子どものこころの発達研究センター 友田明美らは以下興味深い研究を行なっているので紹介する。
RADの神経基盤を探るために、DSM-IV-TRのRADの診断基準を満たしたRAD患者群、ADHD群、定形発達群の3群を対象に、金銭報酬課題を用いた機能的磁気共鳴画像(fMRI)法を実施し脳の活性化を比較した。この調査では、子どもたちにカード当てのゲームをしてもらった。ゲームは3種類あり、一つは当たったらたくさんの小遣いがもらえる(高額報酬)課題、もう一つは少しだけ小遣いがもらえる(低額報酬)課題、最後は全く小遣いがもらえない(無報酬)課題。fMRIを用いて脳の活性化領域を調査した。
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結果
定形発達の子ども
小遣いが多くても少なくても、脳が活性化した。つまり、どんな状況でもモチベーションが高い。
ADHDの子ども
小遣いがたくさんもらえるゲームの時は脳が活性化したが、一方で少しの小遣いだと反応がなく、「やる気になりにくい」ことが示唆された。しかし、薬物治療を行ったあとで調べると、少額のゲームでも活性化がみられた。
RADの子ども
いずれのゲームでも活性化がみられなかった。これは、高報酬のみに反応したADHD群と違い、高額報酬課題にも低額報酬課題にも反応しなかった。それだけ脳が反応しにくいということになる。マルトリートメントを受けることで、報酬系(欲求が満たされた時に活性化して、快の感覚を与える神経系)が影響を及ぼしていた。
何事にも中々やる気が出ない、という場合、不適切な養育、マルトリートメントを受けたことが成長し大人になっても影響を与えている可能性があるということがこの実験の結果から示唆されている。
また、同論文では
「愛着の障害をもつ子どもたちは自己肯定感が極端に低く、叱るとフリーズして固まってしまい、褒め言葉は中々心に響かない特徴があるので、低下している報酬系を賦活させるためにも普通の子供以上に褒め育てを行う必要がある」
マルトリートメントは、「今ココ」の子どもの課題、支援だけが問題になるのではなく、成長し大人になったその後「将来に渡って」支援していく必要がある。
【文献】
・友田明美(2017)「ADHDと愛着障害」「アタッチメント(愛着)障害と脳科学」
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